このコレクション展は名前の通り昭和初期に建てられたという群馬県庁昭和庁舎で続けられました。そんな昭和庁舎昭和の趣にあった展示企画ということでコレクション9のビジュアルは少しばかり装飾的なタイトルとバックの地紋もそんなことを意識したものになりました。ベスト・コレクションとあるように県立近代美術館のコレクション1,700点の中から選りすぐりの東西の名画が展示されたのでした。「名画の餐宴」のタイトル周りにある葉っぱや木の実のシルエットは美術館がある群馬の森で採取したものです。馬のシルエットもやはりそこのあるブルデルのブロンズ像からなのです。裏面の地紋は表面のルドン作《ペガサスにのるミューズ》の部分を使っています。
わが故郷に帰れる日
汽車は烈風の中を突き行けり。
ひとり車窓に目醒むれば
汽笛は闇に吠え叫び
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前橋人にとってたまらない一節です。
前橋出身の司修氏は執筆活動でも良く知られ、また、詩や文学から強い影響を受けて多くの絵画も制作しています。萩原朔太郎の「郷土望景詩」「漂白の歌」からインスピレーションを受けて作品を残すのも当然に思えます。国民文化祭において司修氏監修の「いのちの詩」の朗読のお手伝いを息子たちとしたことがあり、そこで司氏の指導を受けたことがありす。書籍の挿絵や装丁なども多数手がけ本当に多彩な人です。朔太郎も司氏も前橋にとってかけがえのない人です。
画面上部の地紋になっている文字は、萩原朔太郎の「帰郷」(氷島より)です。
何かの機会に訪れた安中市の新島学園に湯浅一郎が模写したというベラスケス(だったかな?)の大作が鎮座していて度肝をぬかれたことがあります。明治の日本人が緻密で大迫力の西洋画を目の当たりにした時も随分驚いたことでしょう。それからというもの日本は西洋の美術を追い求め吸収してきました。ようやく現代になってそんな呪縛から逃れてきたようです。
さて、今回は表も裏も黒を地にしたデザインになっています。よくよく見ると黒色の色味と表情(グロスとマット)が僅かに異なる部分があります。この印刷はシアン、マゼンダ、イエロー、ブラックで刷られています。コート(照りのある)紙にブラックのみマットインクで印刷しました。だからブラックのインクがのっている面がマットになって、それ以外が照りのある画面になっています。どうしてブラックがのっていない照りがある面が黒いのかって?どうぞ考えてみてください。